2008年6月26日木曜日

「SNSとマーケティングと政治家」USFL連載その第25回(10月1週号)

ソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)やウェブを利用したマーケティングにおける成功・失敗例に、どれもかなり面白いものがあります。今回は、政治家とオンラインにおける彼らのマーケティングについて触れます。

04年はディーン氏が善戦
前回(04年)の大統領選挙において、ある民主党の候補者が、その後の政界のキャンペーン活動を変えたと言われています。ハワード・ディーンという、出馬当時はほとんど知られていなかった民主党の大統領候補です。彼は、政界においてはほぼ初めての試みとして、インターネットとSNSを利用し、募金集めから知名度向上に至るまで大成功を収めました。ご存知の通り、民主党の予備選(大統領選に出馬する候補を選ぶ党内選挙)には勝てませんでしたが、彼のオンライン活動は歴史にその名を残したと言っても過言ではないでしょう。

最終的にオンラインで集めた支持や知名度を票に変えることは難しかったようですが、知名度も政治資金も乏しかった無名の政治家が、全国区の大物政治家との予備選で善戦したのは事実です。これは、無名の企業がウェブマーケティングをうまく活用し、大手企業にオンライン上で善戦しているケースに似ていますね。

大統領選挙の候補者たちは、幾つかの厳しい課題に直面しています。その一つに、宣伝活動をするための資金力の極端な差が挙げられます。投票率の低い若者層の興味をいかに引きつけるかも切実な問題です。でも、企業と同様、ウェブマーケティングを有効に活用すれば、こうした問題をある程度はクリアできることでしょう。

ちなみに04年における若者の投票者数は、前回00年の時よりも500万人近く多かったそうです。その理由には、イラク戦争など政治への関心が高まっていたことも挙げられますが、インターネットにより手軽に情報収集やコミュニュティー内の対話が可能になり、若者の政治参加が容易になってきた点も見逃せません。

08”年のディーン氏“は?
08年のディーン氏になるのは、もしかしたらロン・ポールという共和党の候補かもしれません。皆さんは、彼の名を聞いたことがありますか?既存の大手マスコミを視聴している方にとっては、馴染みのない候補かもしれません。しかしポール氏こそ、今回の”オンライン候補者“の筆頭でしょう。

今年の7月、「Ron Paul」というキーワードは「George Bush」よりも多く検索されていたのです。インターネットをうまく使うポール氏は、ユーチューブやブログなどで政策や公約を伝え、かつてのディーン氏のようにSNSのwww.meetup.com(興味・関心が同じ人々をつなぐSNS)を利用して、支持者が簡単に集会を開いて募金活動などができるようにしています。

ちなみに彼はフェイスブックにおいては、より知名度のあるジョン・マケイン候補より多くの支持者を持ち、マイスペースにおいては、有力候補のミット・ロムニー氏よりも多くの「友人」を持ち、ユーチューブにおいては、民主党のヒラリー・クリントン候補よりもビデオの閲覧回数が多いのです。

しかしロン・ポール候補が予備選に勝つことはあり得ないと言われています。それなのに、なぜオンラインではそこまで支持を得られるのでしょうか。一つ言えるのは、オンライン・コミュニティーとオフラインの世界とには、いくつかの明確な違いがあるということです。

2008年6月3日火曜日

「SNSとマーケティング」USFL連載その第24回(9月3週号)

ウェブマーケティングの様々な面を紹介してきた本欄ですが、主に取り上げてきたのはSEM(検索エンジンマーケティング)でした。今回から4回にわたって、ウェブ上の別のマーケティング媒体というか手法であるSNSについて触れます。

ソーシャル・ネットワーキング
以前、ウェブ上のコミュニケーション方法が、従来の一方通行型からインタラクティブ型(ユーザーがウェブ上で他者とのコミュニティーを形成する)にシフトしている傾向について触れました。
ウェブ統計を取るヒットワイズ社によると、今年の2月の時点において、ウェブユーザーの6・2%がソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)へアクセスしています(日本では「SNS」の最後の「S」はサービスの略だとされていますが、本欄ではウェブサイトを意味すると考えます)。
SNSといえば日本の場合、ミクシィ(Mixi)などが有名です。アメリカの代表的なSNSは、マイスペース(MySpace)とフェイスブック(Facebook)になります。

ひと口にSNSと言うけれど
現在2億人のメンバーを持つと言われるマイスペースは、何年か前にフォックス・ブロードキャスティングの親会社に約6億ドル弱で買収された巨大SNSです。そして、マイスペースに次ぐフェイスブックは3100万人強、日本最大のミクシィは約1100万人のメンバーを持つと言われています。
初期の頃から多くのユーザーを確保していく方針だったマイスペースでは、誰でもアカウントを作ることができ、見事に莫大なユーザーの獲得につながりました。
一方フェイスブックは、元々ハーバード大学の学生間で始まったものです。その後近辺の大学生に拡張され、さらに「.edu」のメールアドレスをもつ学生(正式の大学生)、さらには高校生をも追加していきました。現時点では、誰でもメンバーになれることになっています。
この背景の違いが、最近になってSNSの階級社会を生み出していると言われています。ざっくり言ってしまうと、高等教育を受けた層はフェイスブック、庶民派はマイスペースです。
SNSが登場した初期の頃から、巨大SNSの持つメンバー数やユーザー層に魅力を感じ、様々な音楽バンドから各種ショップまで、SNS上でプロファイル(自己紹介的なホームページ)を作り、低価格で口コミ効果を狙う人々がいました。特に若者層にアピールしたい場合、伝統的なメディアよりウェブという新メディアと向き合う必要性が出てきました。もちろんその中には、効果的なキャンペーンもあれば、伸び悩む、あるいはかえって反感を買ってしまうキャンペーンもあります。
本当のところは、SNSごとに「味」というか「傾向」があるので、それらを十分に理解していないままマーケティングを行うと痛い目に遭います(6月3週号で紹介したように、バイラル・マーケティングに失敗してユーザーの反感を買うのと同じです)。

100万人以上の友達
SNSには通常、「友達」機能があります。プロファイルを見て「友達になりたい」とリクエストを送り、承諾されれば、めでたく友達です。中には100万人以上の「友達」を持つ子もいます。
03年からマイスペースのメンバーであるクリスティーンさん(ユーザー名forbidden)は、「友達」の数の多さを利用し、無名の一般人からインターネット・スターへと変身しました。今ではマネージャーを持ち、スポンサーもついて、テレビや雑誌にも出演しています。
マイスペースの使用ルールにより、本当は商業目的に使ってはいけないとはいえ、知名度を上げれば、
知名度自体をお金に変えることができるという彼女の考え方は、まさに今の時代を表していますね。
次回10月1週号(No.374)以降では、SNSをうまくマーケティングに活用できている例と、逆に甘く見て痛い失敗をしているケースを具体的に取り上げます。